「相手を病気にするコミュニケーション」といわれるパワー・ハラスメント。
パワハラを受けている人だけでなく、周囲の人たちの体をも壊してしまうのがパワハラです。
愛知県豊川市役所に勤務していたA課長は、上司のB部長が自分の部下に対してパワハラを繰り返したことが負担となってうつ病を発症して、自殺。
そのことが公務災害(労災)だと認められた判決が、5月に名古屋高等裁判所から出されました。
自分に対するパワハラではなく、第三者に対するパワハラをうつ病や自殺の原因と認定したという意味では、大変画期的な判決といえます。
自殺をしたA課長は、30年間にわたり多数の部署を大過なく歴任、勤務態度に全く問題はなく、性格的には真面目で凡帳面、責任感が強く、仕事を誠実にこなし、穏和で親しみやすい人柄で周囲の人望を集めていました。
私生活においても、何らトラブルもなくうつ病を発症するような原因はありませんでした。
上司のB部長は、高い能力により手腕を発揮、順調に昇進し同期の中では、トップで部長相当職に昇進。
努力と勉強を怠ることなく、大変に仕事熱心で上司からも頼られる一方、部下に対しても高い水準の仕事を求めていました。
指導の内容自体はほとんどの場合正しいものでしたが、ぶっきらぼうで、命令口調である上、声も大きく、朝礼などでフロア全体に響き渡るほどの怒鳴り声で「ばかもの」「おまえらは給料が多すぎる」などと感情的に大声で部下を叱りつけることもしばしばありました。
そんなB部長のパワハラは、市役所内では周知の事実で、「このままでは自殺者が出る」と人事課に直訴する職員も出るほどでした。
ここまで酷いパワハラがあったのに、なぜ市は対応できなかったのでしょうか。
それが、B部長の能力の高さにあったのです。
「仕事上の能力が特に高く、弁も立ち、上司からも頼りにされていたBに対しては上層部でもものを言える人物がおらず、そのためBの指導のあり方が改善されることはなかった。」のです。
ここに大きな問題が潜んでいるのです。
パワハラ問題が起こった職場の人事担当者は、口をそろえていいます。
パワハラの行為者は、「非常に仕事ができる優秀な人だ」「売上成績が良い」「腕のいい医師だ」「保護者から信頼の厚い教師だ」と。
仕事ができるということだけで、部下のマネジメント(指導)ができない人を評価していていいものでしょうか。
部下の健康を奪ってしまう人が、はたして本当に能力があるといえるのでしょうか。
組織として人事評価のあり方・基準を見直す必要があるのです。
同時に、パワハラにならない指導法をしっかりと習得させる必要があります。
もう一つは、周囲の人たちが「それは指導ではなく、パワハラだ」と正しく認識し、指摘できるようになることです。
そのためには、全ての従業員に対して研修が必要なのです。パワハラと指導の違い、パワハラが起こったとき、被害者から相談を受けたときの対処法などを日頃から身につけておくことが重要です。
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